Excelでフィードバックを「見える化」する集計・分析テクニック
はじめに
プロダクトマネージャー補佐として日々の業務に追われる中で、お客様からいただく貴重なフィードバックの整理や活用に課題を感じている方もいらっしゃるかもしれません。多岐にわたる声が集まるほど、それらを一つ一つ丁寧に扱い、プロダクトの改善に繋げることは容易ではありません。特に、どのフィードバックが重要なのか、全体としてどのような傾向があるのかを把握し、「見える化」することは、具体的なアクションへ移すための第一歩となります。
フィードバック管理のための専用ツールも存在しますが、まずは身近なツールで手軽に始めたい、あるいは既存の業務フローの中で効率的に管理したいとお考えの場合、Microsoft Excelは非常に有用なツールとなり得ます。今回は、Excelを使ってフィードバックを効率的に集計・分析し、その結果をプロダクト改善や上司への報告に活かすための基本的なテクニックをご紹介します。
なぜExcelでフィードバックを集計・分析するのか
Excelは多くのビジネスパーソンにとって馴染み深いツールであり、特別な環境構築や複雑な操作を必要とせず、すぐに始められる点が大きなメリットです。
- 手軽さとアクセシビリティ: 多くの職場で利用可能であり、新しいツールの導入ハードルが低い点です。
- 柔軟なカスタマイズ性: 独自の分類項目や分析視点に合わせて、自由にシート構成や集計方法を設計できます。
- 基本的な分析機能: 件数集計、合計、平均などの基本的な数値分析に加え、ピボットテーブルによる多角的な集計、グラフによる視覚化が可能です。
これらの機能を活用することで、散在しがちなフィードバック情報を体系的に管理し、「見える化」につなげることができます。
Excelを使ったフィードバック集計・分析の基本ステップ
ここでは、Excelでフィードバックを管理し、集計・分析を行うための基本的なステップをご紹介します。
ステップ1: フィードバックの記録フォーマットを定める
まずは、受け取ったフィードバックを記録するための列項目を決めます。以下の項目は最低限含めたい情報です。
- 受付日: フィードバックを受け取った日付
- チャネル: どこから受け取ったか(例: お問い合わせフォーム、SNS、営業担当経由、ユーザーインタビューなど)
- お客様名/ID (任意): 可能であれば(プライバシーに配慮)
- フィードバック内容: お客様の生の声(具体的な要望、不満、称賛など)
- プロダクト/機能: どのプロダクトまたは機能に関するフィードバックか
- 分類/カテゴリ: 後述する分類項目
- 重要度/緊急度 (任意): 担当者が感じた主観的な評価
- 対応状況: 現在の対応フェーズ(例: 未確認、確認中、対応予定、対応完了、対応見送りなど)
- 担当者: そのフィードバックを確認・対応する担当者
これらの項目をExcelシートの1行ずつに入力していきます。入力規則を活用すると、チャネルや分類などの項目で揺れを防ぐことができます。
ステップ2: フィードバックを分類する
集計・分析を効率的に行うためには、フィードバックを構造的に分類することが重要です。事前にプロダクトや機能に関する分類、フィードバックの種類(例: バグ報告、機能要望、操作性、デザイン、サポートなど)といったカテゴリを定義しておきます。
各フィードバックに対して、定義したカテゴリを付与していきます。一つのフィードバックが複数のカテゴリに該当する場合は、別途列を追加したり、カンマ区切りで複数カテゴリを入力したりする方法があります。この分類が、後の集計・分析の軸となります。
ステップ3: 基本的な集計を行う
データが蓄積されたら、基本的な集計を行います。
- 件数: 全体のフィードバック件数。ROW関数やCOUNTA関数で簡単に計算できます。
- チャネル別件数: どのチャネルからのフィードバックが多いか。COUNTIF関数やCOUNTIFS関数で集計できます。
- カテゴリ別件数: どのような内容のフィードバックが多いか。COUNTIF関数やCOUNTIFS関数で集計できます。
- 対応状況別件数: 対応済みの件数や、まだ対応できていない件数を把握します。
これらの集計により、フィードバックの全体像や量が把握できます。
ステップ4: ピボットテーブルで多角的に分析する
Excelのピボットテーブル機能は、複雑な集計や分析に非常に強力です。
ピボットテーブルを使えば、例えば以下のような集計・分析が容易に行えます。
- 期間別 x チャネル別のフィードバック件数推移
- プロダクト/機能別 x カテゴリ別のフィードバック件数
- 対応状況別の内訳
データの集計だけでなく、平均値(例: 評価点などがあれば)、最大値、最小値なども表示でき、より詳細な分析が可能です。
ステップ5: グラフで「見える化」する
集計・分析結果は、グラフにすることで視覚的に分かりやすくなります。
- 棒グラフ: チャネル別やカテゴリ別の件数比較に適しています。
- 折れ線グラフ: フィードバック件数の期間推移を示すのに有効です。
- 円グラフ: 全体に対するカテゴリの割合などを示すのに使えます。
ピボットテーブルで集計したデータから、簡単にピボットグラフを作成することもできます。グラフを見ることで、データだけでは気づきにくい傾向や変化を直感的に捉えることができます。
集計・分析結果をプロダクト改善や報告に活用する
Excelで集計・分析し、「見える化」したデータは、様々な形で活用できます。
- 優先順位付けのヒント: 件数の多いカテゴリや、特定のプロダクト/機能に集中しているフィードバックは、改善の優先度が高い可能性を示唆します。また、重要度や緊急度といった項目と組み合わせることで、より総合的な判断材料となります。
- 改善アイデアの発想: 特定のカテゴリで多くの不満が寄せられている場合、その根本原因を探り、具体的な改善策を検討するきっかけとなります。お客様の「生の声」を再確認することも重要です。
- 上司やチームへの報告: ピボットテーブルやグラフは、報告資料にそのまま活用できます。定量的なデータに基づいた報告は、説得力があり、現状理解や意思決定を助けます。特に、月次や四半期ごとに定点観測し、傾向の変化を報告することは、プロダクトの状態を正確に伝える上で非常に重要です。
- プロダクトの課題特定: 想定していなかったチャネルからのフィードバックが多い、あるいは特定の機能に関する不満が急増しているなど、集計・分析結果からプロダクトの隠れた課題を発見できることがあります。
より効率的な管理を目指して
Excelは手軽に始められる強力なツールですが、フィードバックの量が増えたり、チームで共有・管理したりする際には、限界を感じることもあるかもしれません。
- データの一元管理: 複数人で同時に入力・編集する場合、Google Sheetsなどのクラウドベースのスプレッドシートを利用することも一つの方法です。
- 専用ツールの検討: フィードバックの自動収集、高度な分類、ワークフロー管理、他のツールとの連携などが必要になった場合は、フィードバック管理に特化したツールの導入を検討する段階かもしれません。
しかし、ツールに何ができるかを知る前に、まず「どのようなフィードバックを集計・分析し、どのように活用したいか」という目的を明確にすることが重要です。Excelを使った実践は、その目的を具体的に描き、必要な機能を見極める上でも良い訓練となります。
まとめ
フィードバックを単なる「意見」として終わらせず、プロダクトの成長に繋げるためには、体系的な記録、集計、分析、そして活用が不可欠です。今回は、多くの方が日常的に利用されているExcelを活用し、フィードバックを「見える化」するための基本的なステップとテクニックをご紹介しました。
まずは、今回ご紹介したような基本的な記録フォーマットの整備や、簡単な集計から始めてみることをお勧めします。定期的にフィードバックデータと向き合い、数字やグラフを通じてお客様の声の傾向を把握することで、次に取るべきアクションがきっと見えてくるはずです。この一歩が、より効果的なフィードバック活用への道を開くことでしょう。